2016年7月4日
熊本地震は、南阿蘇ルナ天文台にとって、文字通り「世界が一変する」ような大災害となりました。直面する厳しい現状、みなさまからの支援のぬくもり、南阿蘇への思い、そして心を癒やすの星空の美しさ。この震災のもたらしした現状と、そこから立ち上がろうとしている南阿蘇ルナ天文台の様子を、この連載にまとめていきたいと思います。
▲南阿蘇ルナ天文台と北天の日周運動
「震災から立ち上がれ」〜熊本地震と南阿蘇ルナ天文台
第6回 復興への5つのプロジェクト その1
森のアトリエは、地震発生から2週間後には仮営業を、25日後には通常営業をまがりになりにも再開する事ができました。しかし、仮に修復した建物や天文台設備の本格的な復旧はこれからです。今後、建物や望遠鏡の制御システムの大規模な修復を行わなければなりません。
一方、住む家や仕事場を奪われた方々の被害はもちろんの事、愛する南阿蘇の悲惨な姿を見る地域の人々の心は深く傷つき、さらに過剰なマスコミ報道によって美しい南阿蘇のイメージまでもが悪化して、被災していなかった人々にまで経済的な大きな損害が広がっています。
そこで、私たちは思ったのです。これを機に一度天文台の原点にもどり、私たちが本当に行いたかった活動とは何か、そしてそれをどんな人たちと進めていきたいのか、考え直してみる事にしようと。
そして、次の5つのプロジェクトを立て、天文台のリニューアル支援と新しい活動への参加の呼びかけをみなさんにしようと思い立ったのです。
《1. 大望遠鏡を活用した新しい機能を持つ天文台にする》
まず、地震による天体望遠鏡の制御系の損傷の修理に併せて、以下のように天文台に新しい機能を加え、全面改修とリニューアルを図ることにより、星の世界の魅力をより広く一般に伝え、また微力ながら天文学の発展にも寄与したいと思います。
A)大望遠鏡を活用しこれまでにない鑑賞用天体写真の撮影と画像処理を行う
「神秘の環を持つ土星」、「何千億の星々が渦をまくアンドロメダ銀河」。だれもが一度は目にした事のある天体写真は、多くの人の心に宇宙への夢とロマンをかき立ててきました。しかし、天文機材やデジタル処理の進んだ現在では、意外にも観賞用天体写真の撮影技法は、アマチュアによる小望遠鏡での撮影によって確立されたものがほとんどで、公開天文台の大口径望遠鏡の活用はあまりされてきませんでした。大口径望遠鏡の性能は、小さく・暗く・ぼんやりした天体を、より大きく・明るく・くわしく見せる事ができることです。そこで、これからは大口径望遠鏡を使って、これまでにない素晴らしい鑑賞用天体写真の撮影と画像処理を行い、世の中の多くの方がたに宇宙の夢とロマンを届けたいと思います。
▲神秘の環を持つ土星
▲アンドロメダ銀河
B)大望遠鏡を使って新天体捜索を行う
新しく発見される「彗星」や「小惑星」、「新星」や「超新星」など、新天体の発見には、未知の事柄を発見しようと挑む人たちの熱い思いと物語があります。なかでも何千万光年のかなたの銀河に現れる超新星の捜索には、人類の永遠の課題である「宇宙の起源と未来の謎にせまる」大きな意味があります。しかし、日本国内では比較的小口径の望遠鏡によるアマチュア天文家の活躍がほとんどで、大望遠鏡があまり使われておらず、これもまだまだ未開拓の分野です。
▲超新星が現れる遠方の銀河
C)インターネット天文台として公開する
最新のインターネットを通したリモート技術の発展により、天体望遠鏡の操作や観測、天体写真の撮影地を遠隔地からリモートで行う事が可能になってきました。こうしたインターネット天文台は海外にいくつか例がありますが、国内においては大型望遠鏡の利用はこれからです。こうした天体の写真撮影や観測、新天体捜索の機会を一般にも公開し、申込制によって多くのアマチュア天文家やプロの観測者に提供する事により、“公開“天文台の意味はさらに変わってくることでしょう。
▲インターネット天文台の例
第7回へ続く
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